拾遺集・恋
生ふれども駒もすさめぬあやめ草かりにも人の来ぬがわびしさ
拾遺集・恋
かの岡に萩刈るをのこ縄をなみねるやねりそのくだけてぞ思ふ
拾遺集・雑春
春立つと思ふ心はうれしくて今ひととせのおいぞそひける
拾遺集・雑春
さかざらむ物とはなしにさくら花おもかげにのみまだき見ゆらん
拾遺集・雑春
さくら花わがやどにのみありと見ばなきものくさはおもはざらまし
拾遺集・雑春
いたづらにおいぬべらなりおほあらきのもりのしたなる草葉ならねど
拾遺集・雑秋
住の江の松を秋風ふくからに声うちそふるおきつしら浪
拾遺集・雑秋
かりてほす山田の稲をほしわびてまもるかりいほにいくよへぬらむ
拾遺集・雑秋
もみぢ葉のながるる時はたけ河のふちのみどりも色かはるらむ
拾遺集・雑秋
水のおもの深く浅くも見ゆるかな紅葉の色やふちせなるらむ
拾遺集・雑秋
もみぢ葉やたもとなるらむ神な月しぐるるごとに色のまされば
新古今集・春
春雨の降りそめしよりあをやぎの絲のみどりぞ色まさりける
新古今集・秋
秋の野を分け行く露にうつりつつわが衣手は花の香ぞする
新古今集・秋
はつ雁の羽かぜすずしくなるなべにたれか旅寝の衣かへさぬ
新古今集・恋
奥山の峯飛び越ゆる初雁のはつかにだにも見でややみなむ
新古今集・恋
更級の山よりほかに照る月もなぐさめかねつこの頃のそら
新古今集・恋
雲居より遠山鳥の鳴きて行くこゑほのかなる恋もするかな
新古今集・雑歌
淡路にてあはとはるかに見し月の近きこよひはところがらかも
新勅撰集・春
いづれをか わきてをらまし むめのはな えだもたわわに ふれるしらゆき
新勅撰集・秋
あきふかき もみぢのいろの くれなゐに ふりいでつつなく しかのこゑかな
新勅撰集・恋
やまかげに つくるやまだの みがくれて ほにいでぬ恋に 身をやつくさむ
新勅撰集・恋
わびぬれば いまはとものを おもへども こころしらぬは なみだなりけり
続後撰集・春
みるとても をらであやなく 帰りなば 風にや花を まかせはててむ
続後撰集・春
なくとても 花やはとまる はかなくも 暮れゆく春の うぐひすのこゑ
続後撰集・恋
あまのこぐ たななし小舟 跡もなく 思ひし人を うらみつるかな
続後撰集・雑歌延喜廿一年 京極御息所春日社にもうで侍りける日 大和国のつかさにかはりてよめる
年ごとに 若菜つみつつ 春日野の 野守もけふや 春をしるらん
続後撰集・雑歌
言の葉を 月のかつらの 枝なくば なににつけてか 空につてまし
続後撰集・雑歌素性法師みまかりて後によめる
ぬしなくて ふるの山辺の 春霞 いたづらにこそ たちわたるらめ
続後撰集・賀
沢田川 せぜのしらいと くりかへし 君うちはへて よろづよやへむ