和歌と俳句

続後撰和歌集

雑歌

藤原信実朝臣
なき数に 今までもるる 老の身の またくははらむ 程のかなしさ

前大僧正慈鎮
いたづらに よもぎが露と 身をなして 消なば後の 名こそおしけれ

入道親王道覚
うき名だに 猶みにそはぬ こけのしたを つひのすみかと きくぞ悲しき

前大僧正慈鎮
埋れぬ 名をだにきかぬ 苔の下に いくたび草の おひかはるらむ

土御門院御製
春のはな 秋のもみぢの 情だに うきよにとまる 色ぞまれなる

好忠
高瀬さす 淀の汀の うすこほり したにぞ歎く 常ならぬ世を

定修法師
わがこふる 涙ばかりぞ なき人の 思ひし跡に かはらざりける

法橋顕昭
ありし世の かはらぬやどの 月をみて いかに昔を 思ひいづらむ

道命法師
思ひきや 世ははかなしと いひながら 君が形見に 花をみむとは

惟宗行経
桜花 ちりぬる跡の ふるさとは しのぶむかしの 形見だになし

行円法師
よのなかは まどろまでみる 夢なれや いかにさめてか うつつなるべき

中原行範
うつつとも 夢ともいはじ めのまへに みるとはなくて あらぬ浮世を

寂然法師
とへかしな わかれの庭に 露ふかき よもぎがもとの 心ほそさを

返し 西行法師
よそに思ふ わかれならねば 誰をかは 身よりほかには とふべかりける

兵部卿敦固親王みまかりける秋 九月つごもり はてにあたりけるに かのあとに申しをくりける としこ
おほかたの 秋のはてだに かなしきに けふはいかでか 君くらすらむ

清慎公の母みまかりけるはてのわざ営み侍りけるころ 月をみて 貞信公忠平
かくれにし 月はめぐりて 出でくれど かげにも人は みえずぞありける

女御藤原述子かくれ侍りにけるころ 初雪を御覧じて 天暦御製
ふる程も なくて消ぬる 白雪は 人によそへて かなしかりけり

権僧正静円
墨染に 衣はなりぬ なぐさむる かたなきものは 涙なりけり

中納言兼輔
藤衣 よその袂と 見しものを をのが涙を ながしつるかな

素性法師みまかりて後によめる 躬恒
ぬしなくて ふるの山辺の 春霞 いたづらにこそ たちわたるらめ

按察使朝光
煙とも 雲ともみえぬ 程ばかり ありと思はむ 人ぞかなしき

延長八年諒闇のころ 母の服になりて 貫之がもとにつかはしける 中納言兼輔
ひとへだに きるはかなしき 藤衣 かさぬる秋を 思ひやらなむ

母の思ひに侍けるころ 後鳥羽院の素服給りて 前参議信成
うきにまた かさねてきつる 藤衣 ぬれそふ袖は ほす方もなし

藻壁門院御はての日 たれともなくて民部卿典侍の局にさしをかせける 正三位家衡
この秋も かはらぬ野辺の 露の色に 苔の袂を 思ひこそやれ

返し 後堀河院民部卿典侍
けふとだに 色もわかれず めぐりあふ わが身をかこつ 袖の涙は

後堀河院民部卿典侍
いかさまに しのぶる袖を しぼれとて 秋をかたみに 露の消けむ

入道太政大臣みまかりにける秋の末 西園寺にこもりてよみ侍ける 前太政大臣実氏
なき人の かたみも悲し うゑおきて はては散ぬる 庭のもみぢは