和歌と俳句

続後撰和歌集

雑歌

後京極摂政前太政大臣良経
いせしまや しほひもしらず 袖ぬれて いけるかひなき 世にもふるかな

法印覚寛
うかぶべき よるべなくてや くちはてむ うきみわ河の 底のみくづは

従三位顕氏
年ふれど かはりもやらぬ 名取河 うき身ぞ今は せぜのうもれ木

藤原伊長朝臣
うき身世に しづみはてたる 名取河 またうもれ木の 数やそふらむ

雅成親王
よのなかは ふちせもあるを よしの河 われのみふかき みくづなりけり

侍従具定
さだめなく かはるならひの よのなかに 猶うきながら つもるとしかな

前大僧正隆明
山川の おなしながれに すみながら わが身ひとつぞ しづみはてぬる

基俊
年をへて 歎くなげきの 茂りあひて わが身老その 杜となりぬる

正三位知家
いかなりし みののを山の 岩根松 ひとりつれなき 年のへぬらむ

藤原光俊朝臣
よのなかに つひにもみぢぬ 松よりも つれなきものは わが身なりけり

前参議信成
今も世に さすが命の ながらへて いけるかひなき 身をうらみつつ

返し よみ人しらず
うらむなよ あるをうき世の 命だに ながらへてやは またもあひみむ

源有長朝臣
さてもなほ しづの小山田 うちかへし 思ひさだめぬ 身のゆくゑかな

八条院高倉
とにかくに 身みのうきことの しげければ ひとかたにやは 袖はぬれける

雅成親王
うけがたき 身のむくひさへ 忘られて 猶さきの世ぞ かなしかりける

前内大臣家良
うつりゆく 月日ばかりは かはれども わが身をさらぬ うき世なりけり

右近中将経家
何となく あけぬくれぬと さすらへて さもいたづらに ゆく月日かな

藤原信実朝臣
かすならで 思ふ心は 道もなし たがなさけにか 身をうれへまし

法印長恵
そむかぬを そむく世とてぞ なぐさむる あるにもあらで 年へぬる身は

中原師季
よのなかの うきにたへたる 身の程を 思ひしるにも ねはなかれけり

法印尊海
よのなかを いとふ心や さそふらむ うきにとまらぬ わがなみだかな

式乾門院御匣
身をさらぬ おなしうき世と 思はずば 岩ほの中も たづねみてまし

皇太后宮大夫俊成
うき身をば わが心さへ ふりすてて 山のあなたに 宿もとむなり

皇太后宮大夫俊成
今も猶 心のやみは はれぬかな 思ひすててし この世なれども

仁和寺二品法親王守覚
なにごとを まつとはなしに ながらへて おしからぬ身の 年をふるかな

前中納言定家
つゐにまた いかにうき名の とどまらむ 心ひとつの 世をばはつれど

前中納言定家
しぬばかり なげくなげきを 身にそへて 命はさもぞ かぎりありける

前太政大臣実氏
ながらへて けふにあはばと 思ひこし 身のためうきは 命なりけり

前大僧正慈鎮
あるをいとひ なきをしのぶは ならひなり さて恋られば 身こそつらけれ

西園寺入道前太政大臣公経
飛鳥河 ふちせもわかず 底清き 水の心を しる人もがな

関白左大臣
なべて世を なげきやはする 年ふれど 心のみえぬ 身をうらみつつ

建保二年内裏秋十五首歌合に 僧正行意
今ぞしる あゆむ草葉に すておきし 露の命は 君がためとも

建保四年百首歌奉りけるとき 入道前摂政左大臣道家
世のつねの 人より君を たのめとや 契かなしき 身と生れけむ

前大僧正慈鎮
わがためと 思ひてつらき 世なりせば むなしき空を 何かうらみむ

後鳥羽院御製
君かくて 山のはふかく すまひせば ひとりうき世に ものや思はむ

門跡のことを思ひてよみ侍りける 前大僧正慈鎮
たのむぞよ 跡へむ竹の そのの内に わがのちのよを 思ひおくかな

後鳥羽院御製
人もをし 人もうらめし あぢきなく 世を思ふゆゑに ものおもふ身は