和歌と俳句

藤原兼輔

ふりもせぬ君がゆきげの雫ゆゑ袂にとけぬこほりしにけり

あふことをいつしかとのみ思ひつつ暮す心はあやしかりけり

東路のあるかなきかを知らぬ間はいとふにきたるものにざりける

をののえもくちやしぬらむ逢ふことのよよふることのひさしと思へば

こころみに一人寝る夜の夢にだに見ぬはわびしきものにざりけり

古今集・羇旅歌
ゆふつくよおぼつかなきをたまくしげ二見の浦は明けてこそ見め

嵐ふく山下とよみ鳴く鹿の妻こふるねに我ぞわびしき

逢坂の関にわが宿なかりせば別れてのちは頼まざらまし

君がゆく越の白山しらねども雪のまにまにあとはたづねむ

もろともに惜しむ別れも唐衣かたみばかりぞまづそぼちけり

おもひやる心しさきにたちぬればとまる我が身はあるかひもなし

ひとつ巣にかへりはゐれど浜千鳥しばしもたつはわびしかりけり

風にしもつけつるぬさは道の辺のたむけにあはぬかみなかれとぞ

新勅撰集・雑歌
白雲のここのへにしもたちつるは大内山といへばなりけり

あしひきの山のかけはし踏みのぼりけふこそみねの花はふるめれ

日の光ちかきあしたはいただきの霜こそ解けて袖ぬらしけれ

君が名も宮もむかしのしかながらかはれるものは年にぞありける

新勅撰集・雑歌
今はとて風まつほどの桜花人の世よりは久しかりけり

あしひきの山辺にいまは墨染めの衣の袖のひるときもなし

藤衣ひとの袂と見しものをおのが涙に流しつるかな