和歌と俳句

古今和歌集

恋歌一

よみ人しらず
ほととぎす鳴くやさ月のあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな

素性法師
音にのみきくのしら露夜はおきて昼は思ひにあへずけぬべし

紀貫之
吉野川いはなみたかく行く水のはやくぞ人を思ひそめてし

藤原勝臣
白浪のあとなき方に行く舟も風ぞたよりのしるべなりける

在原元方
音羽山おとにききつつ逢坂の関のこなたに年をふるかな

在原元方
立ちかへりあはれとぞ思ふよそにても人に心をおきつしらなみ

貫之
世の中はかくこさりけれ吹く風の目に見ぬ人も恋しかりけり

在原業平朝臣
見ずもあらず見もせぬ人の恋しくはあやなくけふやながめくらさん

よみ人しらず
知る知らぬなにかあやなくわきていはん 思ひのみこそしるべなりけれ

壬生忠岑
春日野の雪間をわけて生ひいでくる草のはつかにみえし君はも

貫之
山ざくら霞のまよりほのかにも見てし人こそ恋しかりけれ

元方
たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人につくるなりけり

凡河内躬恒
初雁のはつかに声をききしよりなかぞらにのみ物を思ふかな

貫之
あふことは雲ゐはるかに鳴る神の音にききつと恋ひわたるかな

よみ人しらず
片糸をこなたかなたによりかけて逢はずは何をたまのをにせん

よみ人しらず
夕ぐれは雲のはたてに物ぞ思ふ天つそらなる人を恋ふとて

よみ人しらず
刈りごもの思ひ乱れてわれ恋ふと妹しるらめや人しつげずは

よみ人しらず
つれもなき人をやねたく白露のおくとはなげき寝とはしのばん

よみ人しらず
ちはやぶる賀茂の社のゆふだすき一日も君をかけぬ日はなし

よみ人しらず
わが恋はむなしき空にみちぬらし思ひやれども行くかたもなし