こゑをのみ よそにききつつ わがやどの 萩には鹿の うとくもあるかな
咲くかぎり 散らで果てぬる 菊の花 植へしも千代の 齢のぶらむ
吹く風に 散りぬとおもふ もみぢ葉の 流るる滝の ともに落つらむ
春来れば 滝の白糸 いかなれば むすべどもなほ あわにとくらむ
おもふこと ありてこそゆけ 春霞 みちさまたげに たちわたるらむ
をちかたの 花も乱るる 白波の ともにやわれは たちわたらまし
ねたきこと 帰るさならば 雁がねを かつききつつぞ われは行かまし
花見にも 行くべきものを 青柳の 糸手にかけて けふはくらしつ
わかやどの ものなりながら さくら花 散るをばえこそ とどめざりけれ
緑なる 松にかかれる 藤なれど おのが頃とぞ 花は咲きける
わかやどの 松のこずゑに すむ鶴は 千代の雪かと おもふべらなり
水とのみ おもひしものを 流れける 滝はおほくの 糸にぞありける
なべてしも 色かはらねど ときはなる 山には秋も しられざりけり
うつろはぬ ときはの山に ふるときは 時雨の雨ぞ かひなかりける
もみぢ葉の まなく散りぬる 木の下は 秋のかげこそ 残らざりけれ
拾遺集・雑春
數ふれど おぼつかなきを わがやどの 梅こそ春の 數をしるらめ
ももちどり 木つたひ散らす さくら花 いづれの春か きつつ見ざらむ
菊の花 雫おちそひ ゆく水の 深き心を 誰か知るらむ
みよしのの 山より雪の 降り来れば いつともわかず わがやどのたけ
梅の花 咲くとも知らず みよしのの 山にともまつ 雪の見ゆらむ