和歌と俳句

新古今和歌集

離別

後三條院御歌
思ひ出でばおなじ空とは月を見よほどは雲居に廻りあふまで

藤原基俊
帰り来むほどおもふにも武隈のまつわが身こそいたく老いぬれ

大僧正行尊
思へども定めなき世のはかなさにいつを待てともえこそ頼めね

よみ人しらず
契り置くことこそ更になかりしかかねて思ひし別れならねば

俊恵法師
かりそめの別れと今日を思へどもいさやまことの旅にもあるらむ

登蓮法師
帰り来む程をや人に契らまししのばれぬべきわが身なりせば

藤原隆信朝臣
誰としも知らぬわかれの悲しきは松浦の沖を出づ舟人

俊恵法師
はるはると君が分くべき白波をあやしやとまる袖にかけつる

西行法師
君いなば月待つとてもながめやらむ東のかたの夕暮れの空

西行法師
たのめおかむ君も心やなぐさむと帰らむことはいつとなくとも

西行法師
さりともとなほ逢ふことも頼むかな死出の山路を越えぬ別れは

道因法師
帰り来む程を契らむと思へども老いぬる身こそ定めがたけれ

皇太后宮大夫俊成
かりそめの旅のわかれとしのぶれど老いは涙もえこそとどめね

祝部成仲
別れにし人はまたもやみわの山すぎにしかたを今になさばや

藤原定家朝臣
忘るなよやどる袂はかはるともかたみにしぼる夜半の月影

惟明親王
なごり思ふ袂にかねて知られけり別るる旅のゆくすゑの露

よみ人しらず
都をばこころをそらに出でぬとも月見むたびに思ひおこせよ

大蔵卿行宗
別れ路は雲居のよそになりぬともそなたの風のたより過ぐすな

藤原顕綱朝臣
色深く染めたる旅のかりごろもかへらむまでの形見とも見よ