さやかなる月日のかげにあたりても天照神をたのむばかりぞ
なかなかにさしてもいはじ三笠山思ふこころは神も知るらむ
きくごとに頼むこころぞすみまさる加茂の社のみたらしの声
うきこともなぐさむみちのしるべとや世をすみよしとあまくだりけむ
いかならむみわの山もととしふりてすぎゆく秋のくれがたのそら
しののめよ四方の草葉もしぼるまでいかに契りて露のおくらむ
そこはかと見えぬ山路の夕けぶり立つにぞ人のすみかとも知る
昔おもふ寝覚めのそらに過ぎ来けむ行方も知らぬ月の光の
山深き竹のあみ戸に風さえて幾夜たえぬる夢路なるらむ
鴫の立つ秋の山田のかりまくら誰がすることぞ心ならでは
あけぬともなほ面影のたつた山恋しかるべき夜半のそらかな
よそにても袖こそ濡るれみなれ棹なほさし帰る宇治の河をさ
新古今集
忘るなよやどる袂はかはるともかたみにしぼる夜半の月かげ
月よする浦曲の浪を麓にてまづ袖ぬらす峯のまつかぜ
ふるさとを隔てぬ峯のながめにも越えこし雲ぞ関はすゑける
みがきおく玉のすみかも袖ぬれて露と消えにし野邊の悲しさ
ほのかなる烟はたぐふ程もなし馴れし雲井に立ちかへれども
うつすともくもりあらじと頼みこし鏡の影のまづつらきかな
知らざりき塵も拂はぬ床の上にひとり齢のつもるべしとは
馴れ来にし空の光の恋しさにひとりしをるる菊の上の露