吉野山かすめる空をけさ見れば年はひとよのへだてなりけり
道たゆる山のかけはし雪きえて春のくるにもあとは見えけり
なにとなく心ぞとまる山のはにことし見そむる三日月のかげ
春きぬとかすむけしきをしるべにてこずゑにつたふ鶯のこゑ
雪きえて若菜つむ野をこめてしも霞のいかで春を見すらむ
かれはてし草のとざしのはかなさも霞にかかる春の山ざと
風かをるをちの山地の梅のはないろに見するはたにのした水
梅の花したゆく水のかげ見ればにほひは袖にまづうつりけり
朝凪にゆきかふ舟のけしきまで春をうかぶる浪のうへ哉
をちこちのよものこずゑはさくらにて春風かをるみ吉野の山
青柳のかづら木山の花ざかり雲に錦をたちぞかさぬる
今もこれ過ぎても春のおもかげは花見るみちの花のいろいろ
あらしやは咲くより散らす桜花すぐるつらさは日数なりけり
をしまじよ櫻ばかりの花もなし散るべきための色にもあるらむ
いしばしる滝こそけふもいとはるれ散りてもしばし花は見ましを
千載集
いづこにて風をも世をもうらみまし吉野の奥も花はちるなり
まだきより花を見すててゆく雁やかへりて春のとまりをばしる
花のちるゆくへをだにもへだてつつ霞のほかにすぐる春かな
を山田の水のながれをしるべにてせきいるるなへになくかはづ哉
くれぬなりあすも春とはたのまぬに猶のこりける鳥のひとこゑ