和歌と俳句

千載和歌集

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藤原定家
いづくにて風をも世をもうらみまし吉野のおくもはちるなり

源季広
ふかくおもふことしかなはば来ん世にも花みる身とやならんとすらん

源師教朝臣
老が世にやどにさくらを移し植ゑてなほこころみに花をまつかな

権中納言実守
くらゐ山はなをまつこそ久しけれ春のみやこに年はへしかど

右兵衛督公行
春日山まつにたのみをかくるかな藤の末葉の数ならねども

前左衛門督公光
物おもふ心や身にも先立ちて憂き世をいでんしるべなるべき

俊恵法師
数ならで年へぬる身は今さらに世を憂しとだに思はざりけり

道因法師
いつとても身の憂きことはかはらねどむかしは老いをなげきやはせし

藤原家基
いにしへも底に沈みし身なれどもなほ恋しきは白川の水

藤原盛方朝臣
あはれてふ人もなき身を憂しとても我さへいかがいとひはつべき

中原師尚
数ならぬ身をうき雲の晴れぬかなさすがに家の風は吹けども

大江匡範
おもひやれ十代にあまれるともし火のかかげかねたる心ぼそさを

藤原公重朝臣
世の憂さを思ひしのぶと人も見よかくてふるやの軒のけしきを

菅原是忠
引く人もなくて捨てたる梓弓心づよきもかひなかりけり

二条院参河内侍
いかで我ひまゆく駒を引きとめてむかしに帰る道をたづねん

源師光
今はただ生けらぬ物に身をなして生れぬのちの世にもふるかな

源俊重
いかにせむ伊勢の浜荻みがくれて思はぬ磯の波に朽ちなば

源俊頼朝臣
真木の戸をみ山おろしに叩かれてとふにつけても濡るる袖かな

橘盛長
小山田のいほにたく火のありなしにたつ煙もや雲となるらん

二条太皇大后宮肥後
山里の柴をりをりに立つけぶり人まれなりと空にしるかな

藤原基俊
秋はつる枯野の虫の声たえばありやなしやを人のとへかし