藤原公衡朝臣
なほざりに帰るたもとはかはらねど心ばかりぞ墨染の袖
法印慈円
おほけなく憂き世の民におほふかな我が立つそまに墨染の袖
寂蓮法師
さびしさに憂き世をかへてしのばすはひとり聞くべき松の風かは
殷富門院大輔
つくづくと思へばかなしあかつきの寝覚めも夢を見るにぞありける
西住法師
まどろみてさてもやみなばいかがせん寝覚めぞあらぬ命なりける
六条院宣旨
先立つを見るはなほこそかなしけれ遅れはつべきこの世ならねど
二条太皇大后宮式部
今はとてかきなすことのはての緒に心ぼそくもなりまさるかな
空人法師
おほゐ川となせの滝に身を投げて早くと人にいはせてしがな
大江公景
鳥辺山きみたづぬとも朽ちはてて苔のしたにはこたへざらまし
法眼兼覚
分けわびて厭ひし庭の蓬生も枯れぬとおもへばあはれなりけり
寂蓮法師
世の中の憂きは今こそうれしけれ思ひ知らずは厭はましやは
覚俊上人
世をそむき草の庵にすみぞめの衣の色はかへるものかは
源通清
思ひやれならはぬ山にすみぞめの袖に露おく秋のけしきを
円位法師
あかつきのあらしにたぐふ鐘のの音を心の底にこたへてぞ聞く
円位法師
いづくにか身を隠さまし厭ひいでて憂き世にふかき山なかりせば
皇太后宮大夫俊成
世の中よ道こそなけれ思ひ入る山のおくにも鹿ぞなくなる
藤原良清
思ふこと有明がたの鹿のねはなほ山ふかく家居せよとや
藤原宗隆
見る夢の過ぎにしかたをさそひきて覚むる枕もむかしなりせば
藤原有家朝臣
初瀬山いりあひの鐘をきくたびに昔の遠くなるぞかなしき
権中納言通親
散りつもる苔のしたにもさくら花惜しむ心やなほ残るらん
入道前中納言雅兼
うれしさを返す返すもつつむべき苔のたもとのせばくもあるかな
藤原季経朝臣
うれしさをよその袖までつつむかなたち帰りぬる天の羽衣
皇太后宮大夫俊成
あしたづの雲路まよひし年暮れて霞をさへやへだてはつべき
藤原定長朝臣
あしたづは霞を分けて帰るなりまよひし雲路けふや晴るらん