和歌と俳句

永縁

やまぶきの はなのたもとを ぬぎかへて 蝉の羽衣 今日ぞ着るめる

舟岡の わたりに咲ける 卯の花は みぎはに寄する 波かとぞみる

けふことに 葵のかつら する人は 神のしるしを おもふなるべし

ありあけの 月とともにや いでつらむ 山ほととぎす 今ぞ鳴くなる

あやめ草 なべてならぬを たづねてぞ 世にたぐひなき 長き根は引け

早苗とる 田子はこひすと なけれども 苗代水に 袖ぞ濡れぬる

鹿のふす 小倉の山の 山人は 火をともしてぞ いるといふなる

五月雨の 晴れぬかぎりは 早苗とる 田子のさ衣 かわくまもなし

さらぬだに むかしの人の 恋ひしきに 花たちばなの にほふなるかな

いにしへは まどにあつめし 蛍をも いまはくもゐの 星かとぞみる

ひとしれず おもふこころは 蚊遣火の 下に焦がるる ここちこそすれ

いかにして 濁れる水に 生ひながら はちすの花の 穢れざるらむ

名にしおはば 氷室のうちに いかにして ゐたる氷の とけぬなるらむ

むすぶ手の たもと涼しく なりゆくは 泉に秋の すむにやあるらむ

うきことを はや川の瀬に 流すてふ 夏越の祓 たれかせざらむ