うらめしや別れの道にちぎりおきてなべて露おくあかつきの空
草の庵の友とはいつかききなさむ心のうちに松風のこゑ
ときわかぬ籬のたけの色にしも秋のあはれの深く見ゆらむ
なれこしは昨日と思ふ人のあとも苔ふみわけて道たどるなり
人とはでみぎりあれにし庭の面にきくも寂しきつるのひとこゑ
いかにせむそれも憂き世と厭ひては吉野の山のなき身なりけり
色はみな空しきものをたつた川もみぢ流るるあきもひととき
何となく見るよりものの悲しきは野中の庵のゆふぐれのそら
とまびさしもののあはれの関すゑて涙はとめぬ須磨のうら風
夜をこめて朝たつ霧のひまひまにたえだえ見ゆる勢田の長橋
待ちえたる日よりを道のたのみにてはるかに出づる波の上かな
露しげきさよの中山なかなかに忘れて過ぐるみやこともがな
暮れて行く春の霞をなほこめてへだつるをちに立ちや別れむ
家居してまだかばかりもしらざりきみ山のさとの木枯しのこゑ
おきふしに音ぞなかれける霜さゆる刈田の庵の鴫のはねがき
心うしこひしかなしとしのぶとてふたたび見ゆる昔なき世よ
うたたねに草ひきむすぶこともなしはかなの春のゆめの枕や
いつ我も筆のすさびはとまりゐてまたなき人の跡といはれむ
惜しまれぬ憂さにたへたる身ならずばあはれ過ぎにし昔がたりを
天つそら月日のかげもしづかにてちよは雲井に君ぞかぞへむ