和歌と俳句

万葉集

巻第三

挽歌

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     七年乙亥大伴坂上郎女悲嘆尼理願死去作歌一首 并短歌
栲角乃 新羅國従 人事乎 吉跡所聞而 問放流 親族兄弟 無國尓 渡来座而  大皇之 敷座國尓 内日指 京思美弥尓 里家者 左波尓雖在 何方尓 念鷄目鴨  都礼毛奈吉 佐保乃山邊尓 哭兒成 慕来座而 布細乃 宅乎毛造 荒玉乃 年緒長久  住乍 座之物乎 生者 死云事尓 不免 物尓之有者 憑有之 人乃盡  草枕 客有間尓 佐保河乎 朝河渡 春日野乎 背向尓見乍 足氷木乃 山邊乎指而 晩闇跡  隠益去礼 将言爲便 将為須敝不知尓 俳? 直獨而 白細之 衣袖不干 嘆乍  吾泣涙 有間山 雲居軽引 雨尓零寸八

     七年乙亥 大伴坂上郎女 尼理願の死去を悲嘆しびて作る歌一首 并せて短歌
たくづのの 新羅の国ゆ ひとごとを よしと聞かして 問ひさくる うがらはらがら なき国に 渡り来まして  おほきみの しきます国に うち日さす みやこしみみに 里家は さはにあれども いかさまに おもひけめかも  つれもなき 佐保の山辺に なく子なす 慕ひ来まして しきたへの いへをも造り あらたまの 年の緒長く  住まひつつ いまししものを 生けるもの 死ぬといふことに 免れぬ ものにしあれば たのめりし 人のことごと  草枕 たびなるほどに 佐保川を 朝河渡り 春日野を そがひに見つつ あしひきの 山辺をさして ゆふやみと  隠りましぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに たもとほり ただひとりして しろたへの ころもで干さず 嘆きつつ  吾が泣く涙 有馬山 雲居たなびき 雨にふりきや

     反歌
留不得 壽尓之在者 敷細乃 家従者出而 雲隠去寸
     右新羅國尼名曰理願也 遠感王徳歸化聖朝 於時寄住大納言大将軍大伴卿家既逕數紀焉 惟以天平七年乙亥忽沈運病既趣泉界 於是大家石川命婦依餌藥事徃有間温泉而不會此喪 但郎女獨留葬送屍柩既訖 仍作此歌贈入温泉

     反歌
留めえぬ 命にしあれば しきたへの 家ゆは出でて 雲隠りにき

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