物思ふ人の境界を描かんとす白く冷たき初秋の水
華やかに縞ある魚を手にもちて秋の磯より走せくる童
若やかに反身をしたる女郎花その前を飛ぶ青き蟷螂
おのが身も秋の御空も澄み通り銀河流るる涙流るる
初秋の雨の踊子美くしや桔梗描きたる燈籠のもと
むらさきの煙も上るここちする蝉の声かな夏木立かな
食卓にメロンの上る日となればこころに沁みぬ森の夕風
八月やセエヌの河岸の花市の上ひややかに朝風ぞ吹く
秋近きリユクサンブルの木下風一人行く日ははかなげに吹く
はかなしと馬追虫をおひ放ち子は籠に飼ふ鉄色の蝉
白くして火よりも熱き香を放つ薔薇を皐月がかたはらに置く
大空も思ひ上れる人なども目に置かぬごと白菊の咲く
薄の穂つひに野沢の水よりも白くめでたくひろごりにけれ
二十六都の北の洞門をくぐれば草に秋風ぞ吹く
しらじらと雲と水との起き出づる浅間の山の朝の渓かな
水の音烈しくなりて日の暮るる山のならはし秋のならはし
浅間山煙するなり人々の高き杖より二尺のうへに
水色の空も来りてひたるなり浅間の山の明星の湯に
悲しけれ信濃の国の高原の薄のうへの落日の舌
山の夜や星に混りてあるごとく高き方にて鳴けるこほろぎ
山の菊かづらのさまに靡くなりたのみあはでは淋しきがため
青やかに松立つ街のめでたけれ白馬に乗れる初春の風
白き羽子心のあがるさまに舞ふ少女子達のつどふ大路に
正月の心の上を戯れて走ると見ゆるひる過ぎの雪
われも云ふ正月の富士高きかな真白きかなと子等に混りて