むかし おとこ 武蔵の国までまどひありきけり
さて その国にある女をよばひけり 父はこと人にあはせむといひけるを
母なんあてなる人に心つけたりける 父はなおびとにて 母なん藤原なりける
さてなんあてなる人にと思ひける このむこがねによみてをこせたりける
住む所なむ入間の郡 みよし野の里なりける
みよし野のたのむの雁もひたふるに君が方にぞよると鳴くなる
むこがね 返し
わが方によると鳴くなるみよし野のたのむの雁をいつか忘れむ
となむ 人の国にても 猶かゝることなんやまざりける
昔 おとこ あづまへ行きけるに 友だちどもに 道よりいひをこせける
忘るなよほどは雲ゐになりぬとも空ゆく月のめぐり逢ふまで