よみ人しらず
逢ふことの方ふたがりて君来ずは思ふ心の違ふばかりぞ
よみ人しらず
ときはにと頼めし事はまつほどの久しかるべき名にこそありけれ
よみ人しらず
こさまさる涙の色もかひぞなき見すべき人のこの世ならねば
よみ人しらず
住吉の岸にきよする沖つ浪まなくかけても思ほゆるかな
返し 伊勢
住の江の目に近からば岸にゐて浪の數をもよむべきものを
伊勢
恋ひてへむと思ふ心のわりなさは死にても知れよ忘れ形見に
返し 贈太攻大臣時平
もしもやと逢ひ見むことを頼まずはかくふる程にまつぞけなまし
よみ人しらず
逢ふとだに形見にみゆる物ならば忘るるほともあらましものを
よみ人しらず
おとにのみ声をきくかなあしひきの山した水にあらぬものから
伊勢
秋とてや今はかきりの立ちぬらむ思ひにあへぬ物ならなくに
伊勢
見し夢の思ひ出でらるる宵ごとにいはぬをしるは涙なりけり
よみ人しらず
白露のおきて逢ひ見ぬ事よりはきぬ返しつつ寝なむとぞ思ふ
よみ人しらず
言の葉はなけなる物といひながら思はぬためは君も知るらむ
朝忠朝臣
白浪の打ちいづる濱の濱ちどり跡やたづぬるしるべなるらむ
大江朝綱朝臣
おほしまに水を運びしはや舟の早くも人に逢ひみてしがな
贈太政大臣時平
ひたふるに思ひなわびそ古さるる人の心はそれぞ世の常
返し 伊勢
世の常の人の心をまだ見ねば何かこのたび消ぬべきものを
平なかきがむすめ
すみぞめの鞍馬の山に入る人はたどるたどるも帰りきななむ
伊勢
日を経ても影に見ゆるは玉かづらつらきながらもたえぬなりけり