誰が里に旅ねしつらんぬばだまの夜半の嵐のうたて寒きに
ひさがたの雪氣の風はなほ寒しこけの衣に下がさねせん
雪とけにみさかを越さば心してたどり越してよ其の山阪を
山かげの草の庵はいとさむし柴をたきつつ夜を明かしてん
世をそむく苔の衣はいとせまし柴を焼きつつ夜をあかしてん
草の庵に寝ざめてきけばあしびきの岩根におつるたきつせの音
心なきものにおあるか白雪は君が来る日に降るべきものか
いかにして君ゐますらん此の頃は雪げの風の日々に寒きに
岩室の田中の松を今日見れば時雨の雨にぬれつつ立てり
石瀬なる田中に立てる一つ松時雨の雨にぬれつつたてり
古を思へば夢か現かも夜は時雨の雨を聞きつつ
いひ乞はんま柴やこらん苔清水時雨の雨の降らぬまにまに
この岡につま木こりてんひさがたのしぐれの雨の降らぬまぎれに
飯乞ふと里にも出でずこの頃は時雨の雨の間なくし降れば
はらはらと降るは木の葉の時雨にて雨を今朝聞く山里の庵
時雨の雨間なくし降れば我が宿は千々の木のはにうづもれぬらん
越に来てまだ越なれぬ我れなれやうたて寒さの肌にせちなる
たまさかに来ませる君をさ夜嵐いたくな吹きそ来ませる君に
谷の聲峰の嵐をいとはずばかさねて辿れ杉のかげ道
草枕旅ねしつればぬばだまの夜半のあらしのうたて寒きに
夜は寒し苔の衣はいとせなしうき世の民に何をかさまし
みぞれ降る日も限とて旅衣別るる袖をおくる浦風