憂かりけりもの思ふころのあかつきは人をも問はむこの世ならでも
松風の梢の色はつれなくて絶えず落つるは涙なりけり
奥山の岩ねの苔の世とともに色も変らぬ歎きをぞする
たらちねの心をしれば和歌の浦や夜ふかきつるの声ぞ悲しき
まだしらぬ山のあなたに宿しめて憂き世隔つる雲かとも見む
はやせ川うかぶになわの消えかへり程なき世をも猶歎くかな
身のはてをこの世ばかりと知りてだにはかなかるべき野邊の煙を
くらべばや清見が関による浪ももの思ふ袖に立ちやまさると
身のうきは久米路の橋も渡らねど末もとほらぬ道まどひけり
思ふ人あらば急がむふな出して蟲明の瀬戸は波荒くとも
みやことてしぼらむ袖もならはぬを何を旅寝の露と分くらむ
帰るさを契る別れを惜しむにもつひのあはれは知りぬべき世を
山里を今はかぎりとたづぬともひとかたならぬ道やまどはむ
いかにせむおくての鳴子引きかへしなほ驚かす仮初の世を
面影はただ目の前の心地して昔としのぶ憂き世なりけり
ぬばたまの夢はうつつにまさりけりこの世にさむる枕かはらで
かつ見つつ猶すてはてぬ身なりけりいつかはかぎり明日や後の世
思ふとてかひなき世をばいかがせむ心は残れなき身なりとも
思ひやる心はきはもなかりけり千歳もあかぬ君が世のため