和歌と俳句

藤原定家

仁和寺宮五十首

君が世はたかのの山にすむ月の待つらむ空にひかりそふまで

うごきなき君がみむろの山水にいく千代法のすゑをむすばむ

あす知らぬけふの命のくるるまはこの世をのみもまづ歎くかな

かばかりと恨みすてつるうき身ほど生れむ後の猶かたきかな

立ちかへり思ふこそなほ悲しけれ名は残るなる苔の行方よ

新古今集・雑歌
わくらばにとはれし人も昔にてそれより庭の跡は絶えにき

残る松かはる木草の色ならですぐる月日も知らぬやどかな

旅ごろも着なれの山の峯のくも重なる夜半を慕ふ夢かな

新古今集
こととへよ思ひおきつつ濱千鳥なくなく出でしあとの月影

面影の身にそふ宿に我まつと惜しまぬ草や霜枯れぬらむ

かへりみる雲より下のふるさとに霞むこずゑは春の若草

わたのはら浪と空とはひとつにて入日をうくる山の端もなし