和歌と俳句

藤原定家

權大納言家三十首

み吉野はまれのとだえの雲間とて昨日の雪のきゆる日もなし

いへばえにおさふる袖も朽ちはてぬ玉のをごとの秋のしらべに

待ちわぶるあふせうらやむ天の川そのほど知らぬ年の契りに

色わかぬ闇のうつつのひとことに袖のちしほはいとど染めつつ

かけてだにまたいかさまにいはみがたなほ浪高き秋の潮風

身を捨てて人の命を惜しむともありしちかひのおぼえやはせむ

かへりみるその面影は立ちそひて行けば隔たる嶺の白雲

山かげやあらしの庵の笹まくら臥し待ち過ぎて月もとひこず

漕ぎよせてとまるとまりの松風を知るひとがほに急ぐくれかな

しのばれむものとはなしに小倉山軒端の松ぞ馴れて久しき

竹の戸の谷のしばはし改めてなほ世をわたる道慕ふらし

知られじな岩のしたかげ宿ふかき苔の乱れてものおもふとも

春日山みねのこのまの月なればひだりみぎにぞ神まもるらむ

せくひともかへらぬ浪の花の蔭うきをかたみの春ぞかなしき

なべて世のなさけゆるさぬ春の雲頼みし道は隔てはててき