立ち初めてけふや幾日のあさまだき霞もなれぬ春のさごろも
いつの日か色には出でむ夜の鶴鳴くや澤邊の雪の下草
まきの戸の夜わたる梅のうつり香もあかぬ別れの有明のかげ
花ざかり空にしられぬ白雲はたなびきのこすやまのはもなし
堀江こぐ霞のをぶね行きなやみ同じはるをもしたふころかな
かへるさのゆふべは北にふく風の波たてそふる岸の卯の花
鵜飼舟むらさめすぐるかがり火に雲間の星のかげぞあらそふ
荻の葉も心づくしの聲たてつ秋は来にける月のしるべに
つれづれと秋の日おくるたそがれにとふ人わかぬ松蟲のこゑ
秋の鹿のわが身こす浪吹く風に妻を見ぬめのうらみてぞ鳴く
招くとて草の袂のかひもあらじとはれぬ里のふるきまがきは
久方のかつらの里のさよごろもおりはへ月のいろにうつなり
朝霜のいかにおきける芦の葉のひとよのふしに色かはるらむ
おのれ鳴け急ぐ関路の小夜ちどり鳥のそらねもこゑ立てぬまに