霜枯やひめごともちて海に対ふ
朝の雪妻をいためし悔心
火の島は雪照りまぶし母と坐す
坂斑雪母はまろびて緒を切らす
鷄鳴く青梅ひそけく辛夷咲く
梅白し機を織りつつ家古りぬ
旅にしてキリスト死せり犬ふぐり
人ごみに母失ふまじき額の汗
花冷えや国訛りの駅に昆布くれぬ
吾を待たで母蓮華田にいざなはる
墓多き博多の町の四月雲
春の雨博多の寿司のくづれをり
草ぼけの高原深くひつぎ行く
五月闇高原のくまに葬り来る
十薬の雨朝々を鬱しをり
雨の中手足そなへて青蛙
炎昼や死を伝へむと巷に佇つ
百日紅縁者を埋けて帰り来る
賑はしく父母と旅ゆく青林檎
父母を抱き立秋のちまた灼くるごとし
炎昼や法師に父母をゆだねたり
秋雲の下こそはかと人住めり
廊の蛾に秋冷いたるあはれさよ
秋日燦亡びしものはただに白し
水温む樹下菩薩の一たむろ
落椿道後の家群とのぐもる
春の雨海ふところに山めぐる
海山のあひだ春日に追はれゆく
花の雨夕焼雲の海のぞく
すぐろ野やはらはら雨の雉を打つ
鴉唖々と枯蘆原に日をのぞむ
麦畑の蛙は月の出かなづ
春日照雨刈田の水に鴉佇つ
残照や刈田の水の赭濁り
遍路あはれ花田落ちゆく鳥の影
散る桜海はらみつつ潮満てり
川蟹の踏まれて赤し雷さかる
塞神肩を抱きて梅雨果つる
旅人の墓に飯供き夏近し
呆けごころまひまひに梅雨あがりゆく
都べに鷺の翔ちゆく茄子の雨
父祖の地や海の月得て昼のごと
親なしにふるさとの月まんまるし
我狂気つくつく法師責めに来る
曼殊沙華赤衣の僧のすくと佇つ
漆紅葉一葉にをれば唇のごと
霜月の愛遠き船灯のともる
茄子枯枝孤児のごと家のぞむ
主待つ枯生に午後の風生まる
湖痩せて風邪の子荒き呼吸なせり
麦の芽や親なしの身に日戯る
暖冬の湖痩せしまま陽がくりぬ
鳰の声夕づく湖の衰へぬ