和歌と俳句

青蛙


梧桐の 葉を打ち搖りて 降る雨に そよろはひ渡る 青蛙一つ

白秋
この夏や 真間の継橋 朝なさな ゆきかへりきく 青蛙のこゑ

白秋
菅畳 けささやさやし 風に吹かれ 跳び跳び軽ろき 青蛙一つ

茂吉
五月の陽 てれる草野に うらがなし 蛙ひとつ 鳴きいでにけり

茂吉
がへる ひかりのなかに なくこゑの ひびき徹りて 草野かなしき

茂吉
五月野の 浅茅をてらす 日のひかり 人こそ見えね がへる鳴く

茂吉
行きずりに 聞くとふものか 五月野の がへるこそ かなしかりけれ

茂吉
さびしさに 堪ふるといはば たはやすし 命みじかし がへるのこゑ

茂吉
晝の野に こもりて鳴ける 蛙 ほがらにとほる こゑのさびしさ

やや枯れし秣にとぶや青蛙 虚子

青蛙ちまちまとゐる三五匹 草城

いとしさに堪へて見てゐる青蛙 草城

いとしさに見つつし飽かね青蛙 草城

青蛙乗りゐし如露をはづしけり 草城

青蛙花屋の土間をとびにけり 石鼎

青蛙薔薇の煙雨に鳴きぬれぬ 麦南

草踏めばあをきがとべり青かへる 悌二郎

青蛙蓮の浮葉のまんなかに 石鼎

鳴いてくれたか青蛙 山頭火

禁札の文字にべつたり青蛙 山頭火

草の青さに青い蛙がひつそり 山頭火

青蛙大和の国に獲て来つる 草城

錫蘭の葉のしげりつつ青蛙 草城

声をそろへて雨がほしい青蛙はうたふ 山頭火

濃きまでに腹の白さや青蛙 石鼎

青蛙ぱつちり金の瞼かな 茅舎

芭蕉葉の露集りぬ青蛙 茅舎

青蛙はためく芭蕉ふみわけて 茅舎

青蛙両手を露にそろへおく 茅舎

芋の葉の青蛙いま跳ばんとす 占魚

青蛙はるかにはるかに街が倒れ 信子

鉄板に息やはらかき青蛙 三鬼

雨の中手足そなへて青蛙 源義

青蛙土下座ならずと高鳴ける 草田男