春霞かすみそめぬる外山よりやがて立ちそふはなのおもかげ
みよし野の花もいひなしの空めかと分け入る嶺ににほへ白雲
山かげはなほ待ち侘びぬ桜花いたりいたらぬはるをうらみて
かずかずに咲きそふ花の色なれや嶺のあさけのやへの白くも
誰か住む野原の末のゆふがすみ立ちまどはせる花の木のもと
飛鳥川かはらぬ春の色ながらみやこのはなといつにほひけむ
春をへて門田にしむる苗代に花のかがみのかげぞかはらぬ
ちらすなよかさぎの山の櫻花おほふばかりの袖ならずとも
みよし野に春の日かずやつもるらむ枝もとををの花の白ゆき
すずか河八十瀬の浪の春の色はふりしく花のふちとこそなれ
やまぶしの人も来て見ぬ苔の袖あたらさくらを打ち拂ひつつ
誰とまた雲のはたてに吹きまよふ嵐の嶺の花をうらみぬ
山びとの跡なきたにのゆふ霞こたへぬはなににほふはるかぜ
櫻色に四方の山風そめてけり衣の関の春のあけぼの
思ふ人心へだてぬかひもあらじ櫻のくもの八重のをちかた
さざなみや櫻吹きかへす浦風をつりするあまの袖かとぞ見る
跡もなき山路の桜ふりはへて問はれぬしるきたにのしばはし
木のもとに待ちし櫻を惜しむまで思へば遠きふるさとの空
春の色ときえずば今朝も見るばかりすこし梢に花の残りて
いかにせむ春もいくかの櫻花かたもさだめぬ風のにほひを