まどのうちに かきほの雪を あつめても 妹がふみこそ まづ見られけれ
鳴きぬなる 鳥はそらねに あらねども あけてぞ通す 逢坂の関
たのむるに のぶる命も 年経れば 限りしあれや なほぞ消ぬべき
さのみこそ 心はかかれ むさしあふみ さしもや君が 我をさくべき
ほととぎす 鳴くべき程も 忘られて もの思ふ時ぞ 待たで聴きつる
君ならで 誰にかとはむ しばしだに 人を忘るる みちを教へよ
つらからぬ 人をも人は 忘るめり うきはなにゆゑ とどこほるらむ
旅寝する 枕に落つる 滝つ瀬は 夢にも妹を 見せじとやさは
あやなしや せめてひとめを つつむまに 戻せし程の ながめだにせず
とりすがる 恋のやつこに 慕はれて たちどまりぬる 旅衣かな
なげきつつ 年ぞ経にける うへこそは 恋を命と 人のいひけれ
いづことも 知らせぬにこそ 知られぬれ 我をなこその 関にやあるらむ
おのづから 逢ふにかへむと 待つ命 それさへいかに 消なむとすらむ
帚木の ふせやといひて けさはまた 隠るるにこそ そのはらはたて
おのづから しばしとだえを 橋にして やがてふみだに みせしとやさは
みとせまで 待ちつる恋の しるしなく 明かしもはてぬ にひ枕かな
よそにみる 人だにしのぶ 袖のうへを 君しもうたた いはきなるらむ
みとせまで 逢はぬためしは なくやあると きくをしばしの たまのをにせむ
逢坂を または越えじと いふにこそ もとの清水に 濡れかへりぬれ
笹わくる 袖とはいひつ 旅衣 露の干る間を 何にかこたむ