をしみかね 暮れぬる春を 夏衣 ひとへにけふぞ たちへだてつる
たちかへり 春やうらみむ いつしかと けさぬぎかふる 花のたもとを
夏衣 けさはたちきし おのづから 散り残るらむ 花もこそみれ
夏衣 たちはきたれど 花のいろに 染めし心を なほぞかさぬる
雪かとて 過ぎて来ぬれば 卯の花を をりしらすとや 人の見るらむ
み空には 雲もたなびけ 卯の花の 月のありあけ すまぬ宿かは
よそに見て すぎこし宿も 卯の花の 咲けるさかりぞ ぬしはとはるる
ゆきとぢし 草のとざしは はらひしを えぞをりのけぬ あだし卯の花
卯の花の ころにしなれば 山里の かきねぞ月の すみかなりける
かきくもる 空はいとはし わがやどの 卯の花月夜 てりまさりけり
卯の花の かきねをすぐる 夕暮は くもらばくもれ 夏の夜の月
夕月夜 いりぬとおもへど 卯の花の 咲けるかきねは 影ぞ残れる
さきかかる 竹のあみ戸の 卯の花は 夜をこめながら 明くるなりけり
卯の花の さかりなるらし 袖たれて をちかた人の 浪をわけゆく
照れば散り 曇れば咲きぬ 月影に ひかりあらそふ やどの卯の花
卯の花の 咲きしかはせる 柴の戸は 入らでやみぬる 夏の夜の色
いかにせむ 山の青葉に なるままに とほざかりゆく 花のすがたを
けふといへば しづのあしずも おとらじと 思ひかけける 葵草かな
うちなびき 春いにしより ほととぎす ねぬ夜いくかに なりぬとかおもふ
ひとこゑを ききてだになほ ほととぎす あかぬ心は またれやはせぬ