和歌と俳句

俊惠法師

さみだれの 晴れせぬころは 最上川 瀬々のいはかど 舟もさはらず

さみだれは 淀の沢水 のみならず 生ふる真菰も 深くなりゆく

玉江には 見えしあやめも 蘆の葉も かつ見隠れぬ さみだれのころ

さみだれは 大江の岸に 水こえて 小屋の軒端に 舟つなぐなり

やまかはの 滝もと去らず 鳴くかはづ いづちかいぬる さみだれのころ

さみだれは 降るとも出でむ 須磨のあまの しほたれ衣 われにかさなむ

さみだれに たななし小舟 みなといれば 竿にぞさはる 蘆の葉末も

さみだれは 山田の畔に 水こえて こなきつむべき 方も知られず

うつし植うる 花たちばなは 行末に 我をしのばむ 香にもたぐへよ

むかし見し 人はあまたを 匂ひくる 花たちばなに 誰をよそへむ

春も秋も 厭ひし風は 匂ひくる 花たちばなの をりぞ待たるる

いたま洩る ありあけの月を しるべにて 花たちばなぞ 匂ひ来にける

あまのとを 夜半の水鶏や 叩くらむ 程なく明くる 夏のしののめ

なかなかに 夢には見べき 待つ人を 叩く水鶏に 謀られにける

まきのとの ならべる数を よそながら 叩く水鶏の 音にてぞ知る

知りながら とふをば知らで なほ叩く 水鶏を幾夜 我はかるらむ

あまのはら 隈なく澄める 夏の夜の 月のかつらは をりや違へる

月きよみ 荻の葉そよぐ 夏の夜は をのへの鹿の 啼かぬばかりぞ

影やどす 水にて夏は 忘られぬ 何かは月の 秋と欺く

難波江に やどかる夏の 月影は 蘆こそ草の 枕なりけれ