和歌と俳句

難波

顕輔
難波江の蘆間にやどる月みればわが身ひとつはしづまざりけり

千載集・春 藤原季通
心なきわが身なれども津の国の難波の春にたへずもあるかな

千載集・羇旅 加茂成保
霜枯れの難波の蘆のほのぼのとあるく湊に千鳥鳴くなり

千載集・羇旅 顕輔
難波潟入江をめぐる蘆鴨の玉藻の舟にうき寝すらしも

千載集・雑歌 円玄法師
難波がた潮路はるかに見わたせば霞に浮かぶ沖の釣舟

新古今集・春 藤原秀能
夕月夜しほ満ちくらし難波江のあしの若葉を越ゆるしらなみ

新古今集・春 源具親
難波潟かすまぬ浪もかすみけりうつるもくるもおぼろ月夜に

新古今集・秋 能因法師
夏草のかりそめにとて来かども難波の浦に秋ぞ暮れぬる

俊恵
いつのまに けさひきかへて 難波潟 いまは春べと 霞みこむらむ

俊恵
鶴のゐる 葦辺をさして 難波潟 武庫の浦まで 霞みしにけり

俊恵
難波潟 夕あさりする あしたづの こゑは霞の ほかにぞありける

俊恵
難波江に やどかる夏の 月影は 蘆こそ草の 枕なりけれ

西行
いつしかと春来にけりと津の国の難波の浦を霞こめたり

西行
露のぼる蘆の若葉に月さえて秋をあらそふ難波江の浦

西行
難波がた月の光にうらさえて波のおもてに氷をぞしく

西行
難波江の入江の蘆に霜さえて浦風寒き朝ぼらけかな

西行
霜にあひて色あらたむる蘆の穗の寂しくみゆる難波江の浦

西行
難波潟波のみいとど数添ひて恨みの干ばや袖の乾かん

西行
難波潟しほひにむれて出でたたむしらすのさきの小貝ひろひに

西行
難波江の岸に磯馴れて這ふ松を音せで洗ふ月の白波

新古今集・冬 西行
津の国の難波の春は夢なれや蘆の枯葉に風渡るなり

新古今集・雑歌 俊恵法師
難波がた汐干にあさるあしたづも月かたぶけば聲の恨むる

定家
なには江のにとづるみをつくし冬の深さのしるしとぞ見る

定家
ひきかへつあしのはめぐむ難波潟うらわの空も駒のけしきも

定家
夏蟲のひかりぞそよぐ難波潟あしのはわけに過ぐる浦風

俊成
さらねども難波の春はあやしきをわれ知り顔にうぐひすのなく

俊成
難波津は昔も梅の咲きければあまの苫屋も風かをるなり

俊成
はむ駒のあしげにのみも見ゆるかな難波の春や深くなるらむ

俊成
しづがせく苗代水の流れまで難波わたりは心ありけり

俊成
おなじくは難波の浦に出でてこそあしてふことはにもせめ

俊成
難波江や入江の葦は霜枯れて月のやどりぞ曇らざりける

俊成
難波潟むれたるたづのうはげこそ千歳もきえぬ霜にはありけれ

俊成
なにはがた葦の枯葉に風さえて汀のたづも霜に鳴くなり

良経
なにはがた入江の葦は霜枯れて氷にたゆる舟の通ひ路

良経
難波江や聖のあとに年暮れぬ月日のいるを思ひおくりて