きのふわれ 宿かりくらし 過ぎてこし 昆陽のわたりは 霞へだてつ
この里も さこそ見ゆらむ きさがたや あまの苫屋は 霞こめつつ
春くれば 籬の島に かけてほす かすみの衣 ぬしや誰なる
ゆふ霞 野島をかけて 立つままに あまのとも舟 かずぞきえゆく
ゆふ凪に 浦のとわたる あまを舟 霞のうちに 漕ぎぞ入りぬる
みやきおろす そまやま人に たちそひて ともにたなびく 朝霞かな
与謝の海は かすみへだてて いづかたか ちふねよるてふ おほかたの浦
ひさかたの あまのかごやま おしこめて つつむは春の 霞なりけり
鶴のゐる 葦辺をさして 難波潟 武庫の浦まで 霞みしにけり
しめはへて しづのあらまく 小山田の 春のかこひは 霞なりけり
難波潟 夕あさりする あしたづの こゑは霞の ほかにぞありける
石見潟 ふかく霞の なりゆくに 漕ぎ離れぬる 程を知るかな
夕霞 しばしな籠めそ あびきする 野島のあまの 袖かへる見む
与謝の海に しま漕ぎ出づる 釣舟を またたち隠す 夕霞かな
あゆち潟 しほひにたてる 白鶴の こゑは霞に まがはざりけり
何となく あれ田に通ふ ますらをの やがて霞に たち隠れぬる
ははこつむ をとめが袖は 夕まぐれ 霞にのみぞ たなびきにける
さらぬだに おぼつかなきを 夕づくよ いざよふ峰に 霞たなびく
苗代の 水におりたつ ますらをは なにと霞に たち隠るらむ
なかなかに われは霞に まがひぬと をちゆく人の 知らず顔なる