かたやまに入日のかげは射しながらしぐるともなき冬の夕暮
ものおもふ寝覚めの床のむらしぐれ袖よりほかもかくや雫は
程もなく過ぎつつ時雨いかにして月に宿かす名残とむらむ
過ぎ来ぬる嵐にたぐふむらしぐれ竹のさえだに聲はのこりて
きのふけふ都のしぐれ風さむしこれや越路の初雪のそら
おほゐがは瀬々のいはなみ音たえて井堰の水に風こほるなり
今朝みれば池にはこほり隙もなしさて水鳥の夜離しけるを
山ふかき水のみなかみこほるらし清瀧川の音のともしき
しらぬ山の雲をはかりに尋ねつつ昔は人に逢ひけるものを
今宵とて入日の空をながめわび雲のむかへを待たぬはかなさ
謀りなき恋のけぶりやこれならむ空に満ちたる五月雨の雲
恋ひ死なむ身ぞといひしを忘れずはこなたの空の雲をだに見よ
あかつきの風にわかるる横雲を置き行く袖のたぐひとぞみる
み吉野の山より深きものやあると心にとへば心なりけり
知るや君すゑのまつやま越す波に猶も越えたる袖のけしきを
なほ通へ宇津の山邊のうつつには絶えにしなかの夢路ばかりを
姨捨の山は心の内なれや頼めぬ夜半の月をながめて
消え難き下のおもひはなきものを富士も浅間も烟たてども