和歌と俳句

藤原良経

二夜百首

みもすその広き流れに照らす日あまねき影は四方の海まで

石清水澄むも濁るも世の中の人の心を汲むにぞありける

わが祈る心のすゑを知れとてや袂に遠き賀茂の川風

契あれや春日の峰の松にしもかかりそめける北の藤波

住吉の岸に生ひける松よりもなほ奥深き秋風のこゑ

長き夜に朝日まつまの心こそ高野の奥に有明の月

雲にふす人の心ぞ知られぬる今日を初瀬の奥の山もと

難波江や聖のあとに年暮れぬ月日のいるを思ひおくりて

絶えず焚く香のけぶりや積もるらむ雲の林に風かをるなり

波にたぐふ鐘の音こそあはれなれ夕べさびしき志賀の山寺

山里に心の奥の浅くては住むべくもなきところなりけり

おのづから便りにきけば都には我が住む谷を知る人もなし

奥の谷に烟も立たば我が宿を猶あさしとや住みうかれなむ

山深み人うとかりし友猿の友となりぬる身のゆくへかな

心ありし都の友も山人となりて思へば岩木なりけり

明石より浦つたひゆく友なれや須磨にも同じ月を見るかな

播磨潟をりよき今朝の舟路かな浦の松風こゑよわるなり

秋の夜のあはれもふかき磯寝かな苫もる雨の音ばかりして

鴎うかぶ波路はるかに漕ぎ出でぬよそめばかりや沖のとも舟

あはれなり雲につらなる波の上に知らぬ舟路を風にまかせて