みもすその広き流れに照らす日あまねき影は四方の海まで
石清水澄むも濁るも世の中の人の心を汲むにぞありける
わが祈る心のすゑを知れとてや袂に遠き賀茂の川風
契あれや春日の峰の松にしもかかりそめける北の藤波
住吉の岸に生ひける松よりもなほ奥深き秋風のこゑ
長き夜に朝日まつまの心こそ高野の奥に有明の月
雲にふす人の心ぞ知られぬる今日を初瀬の奥の山もと
難波江や聖のあとに年暮れぬ月日のいるを思ひおくりて
絶えず焚く香のけぶりや積もるらむ雲の林に風かをるなり
波にたぐふ鐘の音こそあはれなれ夕べさびしき志賀の山寺
山里に心の奥の浅くては住むべくもなきところなりけり
おのづから便りにきけば都には我が住む谷を知る人もなし
奥の谷に烟も立たば我が宿を猶あさしとや住みうかれなむ
山深み人うとかりし友猿の友となりぬる身のゆくへかな
心ありし都の友も山人となりて思へば岩木なりけり
播磨潟をりよき今朝の舟路かな浦の松風こゑよわるなり
秋の夜のあはれもふかき磯寝かな苫もる雨の音ばかりして
鴎うかぶ波路はるかに漕ぎ出でぬよそめばかりや沖のとも舟
あはれなり雲につらなる波の上に知らぬ舟路を風にまかせて