葉隠れに散りとどまれる花のみぞ忍びし人に逢ふ心地する
つれもなく絶えにし人を雁がねの帰る心と思はましかば
朽ちてただしをればよしや我が袖も萩の下枝の露によそへて
妻恋ひて目包まぬ鹿の音をうらやむ袖のみさをなるかは
一方に乱るともなきわが恋や風定まらぬ野辺の刈萱
夕霧の隔てなくこそ思ほゆれ隠れて君が逢はぬなりけり
わが涙しぐれの雨にたぐへばやもみぢの色の袖にまがへる
朝ごとに声ををさむる風の音は夜を経てかるる人の心か
春を待つ諏訪の渡りもある物をいつを限りにすべきつららぞ
わが袖の涙かかると濡れであれなうらやましきは池の鴛鴦
懸樋にも君がつららや結ぶらん心ぼそくも絶えぬなるかな
思ひかね市の中には人多みゆかり尋ねて付くる玉章
波しのぐことをも何かわづらはん君に逢ふべき道と思はば
岩代の松風聞けば物思ふ人も心ぞ結ぼほれける
長月の余りにつらき心にて忌むとは人のいふにやあるらん
ことづくる御生のほどを過してもなほや卯月の心なるべき
天下る神のしるしのありなしをつれなき人ゆくへにて見ん