和歌と俳句

西行

葉隠れに散りとどまれる花のみぞ忍びし人に逢ふ心地する

つれもなく絶えにし人を雁がねの帰る心と思はましかば

朽ちてただしをればよしや我が袖も萩の下枝の露によそへて

妻恋ひて目包まぬ鹿の音をうらやむ袖のみさをなるかは

一方に乱るともなきわが恋や風定まらぬ野辺の刈萱

夕霧の隔てなくこそ思ほゆれ隠れて君が逢はぬなりけり

わが涙しぐれの雨にたぐへばやもみぢの色の袖にまがへる

朝ごとに声ををさむる風の音は夜を経てかるる人の心か

春を待つ諏訪の渡りもある物をいつを限りにすべきつららぞ

わが袖の涙かかると濡れであれなうらやましきは池の鴛鴦

懸樋にも君がつららや結ぶらん心ぼそくも絶えぬなるかな

思ひかね市の中には人多みゆかり尋ねて付くる玉章

波しのぐことをも何かわづらはん君に逢ふべき道と思はば

岩代の松風聞けば物思ふ人も心ぞ結ぼほれける

長月の余りにつらき心にて忌むとは人のいふにやあるらん

ことづくる御生のほどを過してもなほや卯月の心なるべき

天下る神のしるしのありなしをつれなき人ゆくへにて見ん