磯の間に波荒げなるをりをりはうらみを潜く里の海士人
背戸口にたける潮の大淀み淀む年日もなき涙かな
東路や間の中山ほどせばみ心の奥の見えばこそあらめ
いつとなく思ひに燃ゆる我が身かな浅間のけぶりしめる世もなく
播磨路や心の須磨に関据ゑていかで我が身の恋を留めん
あはれてふなさけに恋の慰まば問ふ言の葉やうれしからまし
もの思へばまだ夕暮のままなるに明けぬと告ぐるしば鳥の聲
夢をなど夜ごろ頼まで過ぎ来けんさらで逢ふべき君ならなくに
さはといひて衣返してうち臥せど目の合はばやは夢も見るべき
恋ひらるる憂き名を人に立てじとて忍ぶわりなき我が袂かな
夏草の茂りのみゆく思ひかな待たるる秋のあはれ知られて
くれなゐの色に袂のしぐれつつ袖に秋ある心地こそすれ
新古今集・恋
あはれとて訪ふ人のなどなかるらむもの思ふ宿の荻の上かぜ
わりなしやさぞもの思ふ袖ならめ秋に逢ひても置ける露かな
秋深き野辺の草葉に比べばやもの思ふ頃の袖の白露
いかにせん来む世の海人となるほども見るめかたくて過ぐる恨みを
もの思ふと涙ややがて三瀬川人を沈むる淵となるらん
あはれあはれこの世はよしやさもあらばあれ来む世もかくや苦しかるべき
頼もしな宵暁の鐘の音にもの思ふ罪もつきざらめやは