何とこは數まへられぬ身の程に人を恨むる心なりけん
憂きふしをまづ思ひ知る涙かなさのみこそはと慰むれども
さまざまに思ひ乱るる心をば君がもとにぞ束ね集むる
もの思へば千々に心ぞくだけぬる信太の杜の千枝ならねども
かかる身に生ほしたてけんたらちねの親さへつらき恋もするかな
おぼつかな何の報いの還り来て心せたむるあだとなるらん
かき乱る心やすめの言ぐさはあはれあはれと嘆くばかりか
新古今集・恋
身を知れば人の咎には思はぬに恨みがほにも濡るる袖かな
なかなかに馴るるつらさに比ぶれば疎き恨みはみさをなりけり
人は憂し嘆きは露も慰まずさはこはいかにすべき心ぞ
日に添へて恨みはいとど大海の豊かなりけるわが思ひかな
さることのあるなりけりと思ひいでて忍ぶ心を忍べとぞ思ふ
新古今集・恋
今日ぞ知る思ひいでよと契りしは忘れんとてのなさけなりけり
難波潟波のみいとど数添ひて恨みの干ばや袖の乾かん
心ざしありてのみやは人を訪ふなさけはなどと思ふばかりぞ
なかなかに思ひ知るてふ言の葉問はぬに過ぎて恨めしきかな
などかわれことのほかなる嘆きせでみさをなる身に生れざりけん
汲みて知る人もあらなんおのづから掘兼の井の底の心を
けぶり立つ富士の思ひのあらそひてよだけき恋を駿河へぞゆく
涙川さかまく澪の底深みみなぎりあへぬわが心かな