吹く風に枝のむなしくなりゆけば落つる花こそまれに見えけれ
鳴く鳥の声たかくのみきこゆるは残れる花の枝を恋ふるか
月かげになべて真砂の照りぬれば夏の夜ふれる霜かとぞみる
わが心しづけきときは吹く風の身にはあらねど涼しかりけり
山たかみ谷をわけつつ行く道は吹き来る風ぞ涼しかりける
天の川ほどのはるかになりぬれば逢ひ見ることのかたくもあるかな
秋の夜の霜にたとへつわが髪は年のむなしく老のつもれば
おほかたの秋来るからに我が身こそ悲しきものと思ひ知りぬれ
おく霜に草の枯れ行くときよりぞ虫のなくねもたかくきこゆる
ひととせにただ今宵こそ七夕の天の河原も渡るてふなれ
おもおもふ心の秋にあひぬればひとつはひとぞみえわたりける
おほかたの秋来ることの悲しきはあだなる人は知らずぞありける
つねよりも木々の木の葉はおく霜に紅ふかく見ゆるころかな
かすかなるときのみ見ゆる秋の夜はものおもふことぞくるしかりける
過ぎて行く秋の悲しと見えつるは老なむことを思ふなりけり
もみぢつつ色くれなゐにかはる木は鳴く蝉さへやなくはなりゆく
秋の夜を寒みなきつる虫の音はわが宿にこそあまたきこゆれ
吹く風の音たかくのみきこゆれば置く露ぞただ寒けかりける
ゆく雁も秋すぎがたにひとりしも友に遅れて鳴きわたるらむ
木の葉みな唐くれなゐにしくるとて霜のさらにもおきまさるかな