山ごとに萩のにしきを織ればこそ見るに心のやすきときなき
谷の水ことのねたえずきこゆれば時の間をだにへだてずぞみる
なく涙こふる袂にうつしてはくれなゐ深き色とこそみれ
別れとしいひつるときは遥けきも近きも見ぬぞ恋しかりける
近からぬほどにひとたび別るれば年のみとせぞへだたりにける
別れにし時をおもひてたづぬれば夢のたましひ遥かなりけり
朝ごとにむすぼほれてぞ過し来るふりにし里をこふる心は
別れにし君に見せずていたづらにかたちにかはる身こそをしけれ
白雲はわかるることにいづれとも君とともにぞたち別れぬる
別れての後も逢ひみむと思へどもそれをいづれのときとかは知る
ひとをおくるともに春さへつきゆけばかれこれ恨みあまたありけり
近からず遥けきほどに年を経て別るることは苦しかりけり
別れての後は知らぬをいかならむときにかまたは逢はむとすらむ
そこひなく物ほぞ思ふあかでのみ別るることを嘆く心は
さわぎなく心ひとつをなしつるに命をのぶるものはありけり
世の中を思ひわびぬる心こそ身よりもすぎて老まさりけれ
心をしあまのうきぎになしつれば流るる水にしづまさりけり
墓もなくならむ我が身の一人してあしたゆうべにしづかなるらむ
よるべなくそらにうかべる命こそ夢見るよりもはかなかり
悲しきもうれしきこともおほかたは心の灰となりぬべらなり