誰がやどの 花たちばなに 触れつらむ けしきことなる 風のつてかな
君が代に 枝もならさで 吹く風は 花たちばなの 匂ひにぞ知る
浜風に なびく野島の さゆり葉に こぼれぬ露は 螢なりけり
庭の面の からなでしこの くれなゐは 踏みて入るべき 道だにもなし
おのづから 涼しくもあるか 夏衣 ひもゆふたちの 雨のなごりに
新古今集・夏
おのづから 涼しくもあるか 夏衣 ひもゆふぐれの 雨のなごりに
かはしまの 松のこかげの まとゐには 千代の齢も のびぬべきかな
何ごとに 涼しくものを 思はまし いはまの水の 月見ざりせば
かはやしろ 波のしめゆふ 水の面は 月の光も 清く見えけり
夏の野を ゆすゑふりたて 駒なべて あさ踏ませ行く 人や誰が子ぞ
外山には 草葉わけたる かたもなし 柴刈るしづの 音ばかりして
真菰草 たづきもしらず なりにけり いわけのすすや 沼のまろはし
花さかむ 草をば除きよ 夏の野を なべてな刈りそ しづのをだまき
川の瀬に 生ふる玉藻の 行く水に なびきてもする 夏払へかな