和歌と俳句

源宗于

ひとをおもふ 心はわれに あらねばや みのまとふだに 知られざるらむ

後撰集・秋
わがやどの 庭の秋萩 ちりぬめり のちみむ人や くやしと思はむ

後撰集・秋
梓弓 いるさの山は 秋霧の あたるごとにや 色まさるらむ

白露の おかまくをしみ 秋萩を 折りてはさらに おきやからさむ

よそにして 恋ふればくるし いれ紐の おなし心に いざ結びてむ

君といへば 見まれ見ずまれ 富士のねの めづらしげなく もゆるわが恋

後撰集・秋
きみとわれ 妹背の山も 秋くれば 色かはりぬる ものにざりける

わきもこに 逢坂山の 篠すすき 穂にはいでずも 恋ひわたるかな

としつきは 昔にあらず なりぬれど 恋ひしきことは かはらざりけり

雪つもる おのが年をば しらずして 春をばあすと きくぞうれしき

あさまだき 露わけきつる ころも手の 干るまばかりの 恋ひしきやなぞ

世の人の およびがたきは 富士のねの 麓にたかき おもひなりけり

あけがたき 外山のくもの いとはれて かへりし程は わびしかりきや

くる春に あはむことこそ かたからめ 過ぎゆくたびに 遅れずもがな

君ひとり 訪ひこぬからに わがやどの 道もつゆけく なりにけるかな

草の露 おきしもあへず 朝夕に 心かよはぬ 時しなければ

よそにても おもふ心は かはらねど あひみぬときは くるしかりけり

櫻ちり 卯の花もみな 咲きぬれど こころざしには 春夏もなし

世の中に たれかなたかに たらちねと われとかなかと 人はしるらむ

君はいさ 我が思ひは 白雲の かかる山にも おとらざりけり

新勅撰集・恋
しらつゆの おくをまつまの あさがほは 見ずぞなかなか あるべかりける