うぐひすのはつ音は今日と我が言へば君は昨日といふぞくやしき
梅が枝に花ふみ散らす鶯の鳴く聲きけば春かたまけぬ
この園の梅のさかりとなりにけり我が老いらくの時に當りて
風吹けばいかにせんとか鶯の梅のほつえを木傳ひてなく
我が園の梅のひとふさ残りけり春の名残をあはれめよ君
この頃のひと日ふた日に我が宿の軒ばの梅も色づきにけり
梅の花さかりになりぬぬばたまの今宵の夜半のすぐらくもをし
この里の桃のさかりに来て見れば流れにうつる花のくれなゐ
世の中をうしと思ひて鶯は常世の國につれて往ぬらん
薪こりこの山かげに斧とりていく度かきく鶯の聲
小山田の山田の花を見ん日には一枝おくれ風の便りに
命あらばまたの春べにたづね来ん山の櫻をながめがてらに
いざ子供山べにゆかん櫻見に明日ともいはば散りもこそせめ
さきくてよ鹽法坂を越えて来ん山の櫻の花のさかりに
ひさがたののどけき空にゑひふせば夢もたへなり花の木の下
おほけなく法の衣を身にまとひすはりて見たり山櫻かな
あしびきの山の櫻はうつろひぬ次ぎて咲きこせ山吹の花
見ても知れいづれこの世は常ならぬおそくとく散る花の梢を
えにしあれば又此の館につどひける花の紐とくきさらぎの宵
いそのかみ去年の古野の菫草今は春べと咲きにけるかな
春の野に咲けるすみれを手につみて我が古里を思ほゆるかな
つぼ菫咲くなる野辺に鳴く雲雀聞けどもあかず永き春日に
子供らと手たづさはりて春の野に若菜をつめばたぬしくあるかな
ひさがたの雪げの水にぬれにつつ春のものとてつみて来にけり
春の野の若菜つむとて鹽法の坂のこなたにこの日暮らしつ