和歌と俳句

良寛

うぐひすのはつ音は今日と我が言へば君は昨日といふぞくやしき

梅が枝に花ふみ散らす鶯の鳴く聲きけば春かたまけぬ

この園の梅のさかりとなりにけり我が老いらくの時に當りて

風吹けばいかにせんとか鶯の梅のほつえを木傳ひてなく

我が園の梅のひとふさ残りけり春の名残をあはれめよ君

この頃のひと日ふた日に我が宿の軒ばの梅も色づきにけり

梅の花さかりになりぬぬばたまの今宵の夜半のすぐらくもをし

この里の桃のさかりに来て見れば流れにうつる花のくれなゐ

世の中をうしと思ひて鶯は常世の國につれて往ぬらん

薪こりこの山かげに斧とりていく度かきく鶯の聲

小山田の山田の花を見ん日には一枝おくれ風の便りに

命あらばまたの春べにたづね来ん山の櫻をながめがてらに

いざ子供山べにゆかん櫻見に明日ともいはば散りもこそせめ

さきくてよ鹽法坂を越えて来ん山の櫻の花のさかりに

ひさがたののどけき空にゑひふせば夢もたへなり花の木の下

おほけなく法の衣を身にまとひすはりて見たり山櫻かな

あしびきの山の櫻はうつろひぬ次ぎて咲きこせ山吹の花

見ても知れいづれこの世は常ならぬおそくとく散る花の梢を

えにしあれば又此の館につどひける花の紐とくきさらぎの宵

いそのかみ去年の古野の菫草今は春べと咲きにけるかな

春の野に咲けるすみれを手につみて我が古里を思ほゆるかな

つぼ菫咲くなる野辺に鳴く雲雀聞けどもあかず永き春日に

子供らと手たづさはりて春の野に若菜をつめばたぬしくあるかな

ひさがたの雪げの水にぬれにつつ春のものとてつみて来にけり

春の野の若菜つむとて鹽法の坂のこなたにこの日暮らしつ

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