わくらばに訪ふ人もなき我が宿は夏木立のみ生ひしげりつつ
夏草のしげりにしげる我が宿は狩りとだにやは訪ふ人はなし
わくらばに人も訪ひ来ぬ山里は梢に蝉の聲ばかりして
我が庵は森の下庵いつとても青葉のみこそ生ひしげりつつ
この宿に我れ来て見れば夏木立しげりわたりぬ雨のとぎれに
みあへする物こそなけれ小がめなる蓮の花を見つつしのばせ
秋萩の咲くを遠みと夏草の露をわけわけ訪ひし君はも
あしびきの山のしげみを恋ひつらん我れも昔のおもほゆらくに
おしなべて緑にかすむ木の間よりほのかに見ゆる弓張の月
待たれにし花は何時しか散りすぎて山は青葉になりにけるかな
蓬のみしげりあひぬる我が宿は尋ぬる人も路まよふらし
深見草今を盛りに咲きにけり手折るも惜しし手折らぬも惜し
朝夕の露のなさけの秋近み野べの撫子咲きそめにけり
夏草は心のままにしげりけり我れ庵せんこれの庵に
八木山の木かげ凉しく木を折るは神の恵と今は思はん
朝露にきほひて咲ける蓮ばの塵にはしまぬ人のたふとさ
今人の往くさ来るさのみをさけず持てるうちははこれにあらずや
さす竹の君がたまひしさ百合根のそのさゆりねのあやにうましと
あさもよし君がたまへしさ百合根を植ゑてさへ見しいやなつかしみ