八重葎とぢけるやどのかひもなしふるさととはぬ花にしあれば
竹のかき松のはしらは苔むせど花のあるじぞ春さそひける
花のふち櫻のそこと尋ぬれば岩もる水のこゑぞかはらぬ
枝かはす松のみありし梢にて雲と浪とにたどる春かな
空はゆき庭をば月のひかりとていづくに花のありかたづねむ
花の香はかをるばかりを行方とて風よりつらき夕闇のそら
思ひ入るゆくへは花のうへにして苔にやどかる春のうたたね
過ぎがてに折らましものを櫻花かへる夜のまに風もこそ吹け
散りまがふ木のもとながらまどろめば櫻にむすぶ春の夜の夢
まだ馴れぬ花のにほひに旅寝して木立ゆかしき春の夜のやみ
たまぼこのたよりにみつるさくら花またはいづれの春かあふべき
やまざくらいかなる花の契りにてかばかり人のおもひ初めけむ
時こそあれさらではかかる匂かは櫻もいかに春を待ちけむ
さくらばなたをりもやらぬ一枝にこずゑにのこる心をぞ知る
山桜心の色をたれ見てむいく世の花のそこにやどらば
のちもうし昔もつらし桜花うつろふそらの春の山かぜ
梢よりほかなる花のおもかげもありしつらさのわたる風かな
なにとなくうらみなれたる夕べかな弥生の空の花のちるころ
暮れぬとも花ちる嶺の春の空なほ宿からむ一夜ばかりも