いく秋とゆくへもしらぬ神世まで袂に見する月の空かな
月をおもふ心にそへて偲ばずば忘れもすべき昔なりけり
床の上の光に月のむすびきてやがて冴えゆく秋の手枕
月きよみ羽根うちかはし飛ぶ雁のこゑあはれなる秋風の空
あくるそら入る山の端を恨みつついくたび月にものおもふらむ
袖のうへ枕のしたにやどりきて幾年なれぬ秋の夜の月
更級は昔の月のひかりかは ただ秋風ぞ姨捨の山
よもの空ひとつ光に磨かれてならぶものなき秋の夜の月
衣うつひびきに月のかげふけて道ゆき人の音もきこえず
影さえて照らす越路の山人は月にや秋をわすれはつらむ
あくがるる心はきはもなきものを山の端ちかき月のかげかな
わすれじよ月もあはれと思ひ出でよわが身の後の行く末の秋
しかりとて月の心もまだしらずおもへばうとき秋のねざめを
峯のあらし浦の波風ゆきさえてみな白妙の秋の夜の月
月きよみねられぬ夜しももろこしの雲の夢まで見る心地する
今よりのこずゑの秋は深くとも月いづる峯は風のまにまに
露しぐれ下葉のこらぬ山なれば月も夜をへてもりまさりけり
山の端の思はむこともはづかしく月よりほかの秋はながめじ
あぢきなく物おもふ人の袖のうへに有明の月の夜を重ねては
長月の月のありあけの時雨ゆゑあすの紅葉の色もうらめし