庭の雪もかつちる花もあたらしく櫻にまじる朝清めかな
あかぬ夜の月のなごりのうたたねに衣手しろくあくる山のは
長き夜に妻どふ鹿ややすむらむ明くればひとり山風ぞ吹く
朝ぼらけ夜床のしものいざとさに烟をいそぐ冬のやまがつ
おもふには暮れなばなげと急げども花におぼめくたそがれの山
打ちはぶき寝に行く空のむら鳥のおのがあはれは夏のゆふぐれ
ながむとて人もたのめず月も出でてただ山の端の秋の夕暮
あはれまたこよひの雪のいかならむまがきの竹の夕ぐれの空
まどろまではかなき夢の見えしより春の夜ばかり憂きものはなし
宿からや鳴く一声のほととぎす寝ぬにはかなき夜半の五月雨
昔とてこふともあはむものなれや何おもかげの秋の夜の空
いたづらに折松たきてふけしよをなほ九重のうちぞこひしき
恥かしや花のいろ香に誘はれてうき世いとはぬ春の山ぶみ
涼しさをたづね求むるころだにもさればと山に住むひともなし
秋山はもみぢ踏み分け訪ふ人も聲きく鹿の音にぞなきぬる
このごろは霜雪だにも落ち散らぬ冬のみ山のひるのさびしさ
菫つみ野邊のかすみに宿かれば衣を薄み月はもりつつ
夕涼みとぶ火の野守このごろやいまいくかありてあきの初かぜ
蟲のこゑ花におく露ものごとに秋は野原のほかにやはある
立つ雉の狩場のま柴かれはてて己がありかのかげもかくれず