和歌と俳句

源信明

ありしより つらきところも まさらなむ かひなきよりは たえてやみなむ

わかことや 人もいふらむ 山里は こころほそさぞ 住み憂かりける

なき人も あるかつらきを 思ふにも 色わかれぬは 涙なりけり

しののめの 明けざりしかば 夜もすがら 槙の戸よりぞ たちかへりにし

夏の夜も 槙の板戸も いたづらに あけてくやしく おもほゆるかな

あけにけり 影めづらしき ます鏡 ふたよりみより ねこそなかるれ

心から 見ざりしかげは ます鏡 みよりなくとも 今はかひなし

おもひやる 心もよにも 遅れぬる 野にも山にも ゆくと見えつつ

世とともに 惑ふ心や ひとめには 野にも山にも ゆくと見ゆらむ

年を経て 我こそしたに 住の江の まつをば人の うへとききつつ

心にも あらでうきよに 住の江の 年経る松ぞ 見ぬはくるしき

拾遺集・恋
恋ひしさは おなし心に あらずとも 今宵の月を きみ見ざらめや

拾遺集・恋 中務
さやかにも 見るべきものを 我はただ 涙にくもる をりぞおぼゆる

わびつつも この世は経なむ わたりかは のちの淵瀬を 誰にとはまし

この世をば おひもかつきて 渡してむ のちははじめの 人をたづねて

からくして 惜しみとめたる 命もて 逢ふことをさへ やまむとやする

もろともに いさとはいはで 死出の山 いかでかひとり 越えむとはせし

あかつきに なくゆふつげの わがこゑに おとらぬ音をぞ なきてかへりし

あかつきの 寝覚めのみみに ききしかば 鳥よりほかの 声はせざりき

これはかく うらみところも なきものを うしろめたくは 思はざらなむ