和歌と俳句

源信明

霰ふる 峰の山辺の さかき葉に ゆふかけてこそ くれはかへらめ

われだにも 今日めづらしく 見る山に あまたの年の 越えにけるかな

やまぢには たえて水だに なかりせば いとど涙ぞ そぼちまさまし

そぼつとも ここに暮さむ 山の井に 恋ひしき人の 影や見ゆると

かなしさの 月日にそへて 今よりは わが身ひとつに とまるべきかな

しぐれつつ こずゑはここに うつるとも 露におくれし 秋は忘れじ

うれしきも あはれも深き 春なれば 別れがたきも 見ゆる今日かな

年経れば 忘やせむと 思ふこそ あひみぬよりも われはわびしき

ながらへむ 命もしらぬ 忘れじと 思ふ心は 身にぞはりつつ

続後撰集・恋
憂しと思ふ 心の越ゆる 松山は ためしもかひの なくぞおぼゆる

続後撰集・恋返し 中務
秋といへば 色もかはらぬ 松山は 立つとも波の 越えむものかは

こりすまに 絶ゆる間もなき 水茎の なくなく書ける ふみにぞありける

ちはやふる かもの葵を 祈りつつ かざして君を 頼みけるかな

ちはやふる かもの葵を かくるより いととうきても おもほゆるかな

神代より いむといふなる 五月雨の こなたに人を 見るよしもがな

五月雨の こなたかなたも あふことは いつもいむとぞ 人はいふなる

いづこにも 思ひもいらむ 世とともに いまぬたえまの なかも何かは

今宵ねて 近江へゆくと 見し夢の かなしと袖に ふる涙かは

程もなく やみぬる雨に たとふるは いかにかなしき 涙なるらむ

かぎりなく かなしと人を 思ふには もの思ひ増す ものにぞありける