和歌と俳句

俊惠法師

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とにかくに たへぬ思ひに 恋ひ死なば 誰にかへつる 命とかいはむ

夢にさへ 辛きけしきの しるければ 返すもの憂き 小夜衣かな

すがたこそ おいその森と しもかれめ 袖のけしきは わかの浦浪

思ふとて えぞ立てそめぬ にしき木を 千束まつべき 齢あらねば

ふたよとも 越えみてしがな 逢坂の 関守しばし うちも寝ななむ

きぬぎぬに なるべき人も なきものを 明けぬと鳥の 誰に告ぐらむ

夢をだに 思ふばかりも むすばじや さてもや恋の しばしやすむと

世の中は はてや何かは 夢ならぬ あひみぬ鴛鴦も うつつと思はじ

わびつつは 逢ふと見る夜の 夢をだに 君がなさけと 思はましかば

わが恋は あまもすさへぬ うつせ貝 いくしほ濡れて 年の経ぬらむ

さりともな 恋ひ死ぬる身を 君とても いつまでよそに きかむとすらむ

たのめおきし 人も来まさぬ 秋の夜は また鳥の音を 待つが苦しさ

なかなかに 夢もけしきは 憂かりけり おもかげのみぞ おもかはりせぬ

おもへただ 恋ひ死ぬるまで つれなくて やみにし我と いひて何そは

もらさむと 筧の水の うけうけて 何のふしゆゑ とどこほるらむ

つつめども あまるおもひの 言の葉は 心にもあらで 散りぞしぬべき

なくとても ひとや苦しき わが涙 みるめにさへも あまりけるかな

明くと待ち 暮ると慕ひて いつまでか わがなづさはむ ひとのよつまに

水鶏ぞと 人はきけとて しのびづま 叩きもすらむ 訪はずしもあらじ

わが心 むすぼほれつつ 過ぐせども まだうちとけず 岩代の松