朽ちにける 袖のためしを 見せおかむ またつれなくや ならむと思へば
なぞやわが 飾磨の褐の あひそめて かへらぬ道を ならはざりけむ
あひもみて かへりし宵の 袖だにも いとかくまでは ひぢずやありけむ
思へただ 夢にだにこそ 人を見て あしたの床は 起き憂かりけり
一夜だに とこそかねては 思ひつれ けさ起き憂しと いふぞつれなき
しまきする おまへの灘は 過ぎねども けさのおきこそ 思ひ侘びぬれ
逢坂の 関のすぎむら すぎながら もとの清水に 濡れかへりぬる
ちつかまで わがたておきし にしき木を 君は一夜に 樵り果てにけり
あかつきの とりぞ思へば はづかしき 一夜ばかりに 何いとひけむ
新勅撰集・恋
あかつきの とりぞおもへば はづかしき ひと夜ばかりに なにいとひけん
新勅撰集・恋
わするなよ わすれじとこそ たのめしか われやはいひし きみぞちぎりし
うつつとも なくて一夜は 明けにしを その夢をだに またも見ぬ憂さ
よを寒み 待つ人も来ぬ 柴の戸を あやなく叩く やまおろしの風
ひとりねて 待ちのみ明かす 鳥の音を 厭はむ夜には いつかなるべき
さもこそは 君をいのらめ なぞやこは うさかの森の 神もつれなき
つれもなき 君にしなれば 真鳥すむ うなての森の 神もたよらず
ひきかへし こまかにかける 玉づさも うらむところの 無くはこそあらめ
さのみやは けささへ君を うらむべき おきてきつるは 人の咎かは
あかずして 別るる今朝の 道芝は 数よりほかの 露や置きそふ
千載集・恋
から衣 返しては寝じ 夏の夜は 夢にもあかで 人別れけり
わが恋は 二上山の もろ蔓 もろともにこそ かけまほしけれ