近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇 謚曰天智天皇
近江の大津の宮に天の下知らしめす天皇の代 天命開別天皇 謚して天智天皇と云ふ
天皇贈鏡王女御歌一首
妹之家毛継而見麻思乎山跡有大嶋峰尓家母有猿尾
一云 妹之當継而毛見武尓 一云 家居麻之乎
天皇、鏡王女に贈ふ御歌一首
歌妹が家も継て見ましを大和なる大島の嶺に家もあらましを
鏡王女奉和御歌一首
秋山之樹下隠逝水乃吾許曾益目御念従者
鏡王女、和へ奉る御歌一首
秋山の木の下隠り行く水の我れこそ増さめ思ほすよりは
内大臣藤原卿娉鏡王女時鏡王女贈内大臣歌一首
玉匣覆乎安美開而行者君名者雖有吾名之惜雲
内大臣藤原卿、鏡王女を娉ふ時に、鏡王女が内大臣に贈る歌一首
玉櫛笥覆ひを易み明けていなば君が名はあれど我が名し惜しも
内大臣藤原卿報贈鏡王女歌一首
玉匣将見圓山乃狭名葛佐不寐者遂尓有勝麻之自
或本歌曰玉匣三室戸山乃
内大臣藤原卿、鏡王女に報へ贈る歌一首
玉櫛笥みもろの山のさな葛寝ずはつひに有りかつましじ
内大臣藤原卿娶采女安見皃時作歌一首
吾者毛也安見皃得有皆人乃得難尓為云安見皃衣多利
内大臣藤原卿、采女安見皃を娶る時に作る歌一首
我れはもや安見児得たり皆人の得かてにすといふ安見児得たり