和歌と俳句

富澤赤黄男

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椿散るああなまぬるき昼の火事

空想の水平線の花雌蘂

花粉の日 鳥は乳房をもたざりき

花粉とぶ倫理は水とながれたり

葩散りて赤い傷ふくわが季節

春睡はしろき花粉をみなぎらし

日溢れ腹のおもたき魚およぐ

窓あけて虻を追ひ出す野のうねり

チユウリツプこの日五月の日傘さす

風光る蝶の真昼の技巧なり

わが日記尺取虫は壁を匍ふ

炎天に蒼い氷河のある向日葵

鶏交り太陽泥をしたたらし

陽炎はぬらぬらひかる午後のわれ

日に吼ゆる鮮烈の口あけて虎

揺れてくる鵞鳥 緑の焔の風景

けだものに樹林の蒼の烟が匍ふ

黄昏れてゆくあぢさゐの花にげてゆく

蛇となり水滴となる散歩かな

鶴渡る大地の阿呆 日の阿呆

豹の檻一滴の水天になし

白日の麦の穂はなぜ痒いのか

海鳥は絶海を画かねばならぬ

蒼海が蒼海がまはるではないか

雲 雲は かの花びらは崩れたり

太陰のをんなのしづかなる暴風

蝶ひかりひかりわたしは昏くなる

はたはたの赤い風車の花のまぼろし

黴の花イスラエルからひとがくる

詩枯れて雲搏つしろき秋の鶏

詩涸れて蒼天の石掌に焦げる

詩空し河床に炎える牛一つ

青き虫匍ふ地の底に立つ火ばしら

炎天の巨きトカゲとなりし河

藻の花がさく人閧ノ流離あり

鱗雲かの澎湃と湧く魚群

喨々と断雲が吹きならすラッパ

赤い花買うふ猛烈な雲の下/p>

朝焼の汚れた雲を洗濯する

帆柱の雲を倉庫へ積み上げる

河涸れて雲を搬んでゆく車

とある夜は呼吸とめてきく長江の跫

民族の郷愁 鶏を焼くにほひ

黄風にとほく家鴨を裸にす

水車ふむ悠久にして黄なる地

銅幣を掌にうらがへしたる日輪

烈日を溶かさんと罌粟をさかしむる

瓜を啖ふ大紺碧の穹の下

落葉松の葉のふりしきるとき陽の箭